「入院の準備」でも書きましたが、日本の病院では、入院が決まると、入院中に必要なもののリストが記載された「入院案内」が手渡され、患者はそれらを準備して入院時に持参しなければなりません。入院中に必要なものはそれだけではなく、更にそれぞれの病棟によって、また患者の病状や治療内容によって、そこで必要になるものが決められていて、もう一つ準備しなければならないもののリストが渡されまます。私自身が、3つの大学附属病院に入院した経験では、3か所とも一般の入院患者用のリストと、病棟用のリストがありました(下の写真)。
そこでまず気にかかるのは「T字帯」という文字。これを読まれている皆さまは、T字帯がどのようなものか、ご存知でしょうか?一般的な日本語では「ふんどし」と呼ばれるもの、これを知っていても、日常で使用していらっしゃる方は皆無に近いのではないでしょうか?ほぼすべての患者は、持っていないばかりか、売られているのを見たこともないことでしょう。写真のリストにも記載されているように、ほとんどの病院では、病院内の売店で販売されているようです。
T字帯を何に使うか、というと、全身麻酔の手術をする際など、尿道カテーテルを挿入しますし、手術の部位にもよりますが、普段身に着けているショーツなど、着脱が困難なものに代わる下着として、なのだと思います。
ですが、このT字帯、ただのさらしの生地に木綿の、伸縮性が全くない紐が縫い付けられているだけのものです。手術後、麻酔から覚めて気が付くと、股のあたりにヨレヨレの布がまとわりついている、ウェストに結びつけられた紐は丸まって細くなり、きつく結ばれていれば肌に食い込み、緩ければ腰の周囲でずれて脱げそうになり、不快なだけで全く下着としての役割を果たさない。脱ごうとしても、木綿の紐の結び目が固く、手術後で力が入らない指先では結び目を解くのも一苦労。このような経験を、手術の度に何度も繰り返している。
日本の病院で長い間続いている儀式のようにさえ思えるT字帯の使用、伸縮性に富み、肌触りのよい紙おむつなど、便利なものが豊富に出回っている今日、なぜ江戸時代と変わらない素材の、不便な「ふんどし」を使っているのだろうか。看護師さんにこの疑問を投げかけると、「えっ?T字帯を使わなかったら、何を使うんですか?」と逆に質問されてしまった。
米国で全身麻酔の手術を受けて入院したとき、病衣の下は下着をつけず、素っ裸だった。その病衣も、後ろを紐で簡単に結ぶだけの、日本の昔の割烹着のような形なので、患者は、後ろから見ればおしりが丸見えだった。下着が必要な場合に使用したのは、チューブなどがそのまま通せるほど大きな伸縮性のある網目のショーツだった。米国の病院では、これらの病衣もショーツも、歩くときに履くすべり止めのついた靴下も、すべて入院中に必要なものは病室で提供された。
日本では、入院に必要な荷物を持って、入院手続きを済ませて病棟にたどりつくと、T字帯を含めて、 尿取りパッド(導尿カテーテルを使用している間、清拭時に使用するため)など、売店で売っていますので購入してきてください、と担当の看護師さんに言われる。売店というのは、大概、病棟から出て、外来患者さんが多い建物の別の階にあり、そこまで買いに行かなければならない。
入院する患者は、病人で、体調が悪く、売店まで行ってくれる身内などの付添人がいるとは限らない。事前に使用することがわかっているT字帯、尿取りパッドなど、病棟で購入できるようにする、あるいは入院費から差し引く、などできないものだろうか?手術室に行くときに履いていたショーツを脱がせてT字帯をつけた後にショーツを入れるためのビニール袋、横になったままでも水を飲めるようにするためのストローなど、必要なだけ病棟で提供するようにしていただけないものだろうか?一つ一つ、小さなことでも、しなくてすめば病人はとても助かるのだ。病棟関係者の方々に改善をお願いしたい気持ちです。