入院した経験がおありの方も少なくないと思います。
入院することが決まると、入院時に必要な持ち物のリストが書かれた冊子を渡されたり、看護師さんからそれぞれの病棟で必要なものの説明を受けます。着替え、入浴時に必要なシャンプーやタオル、箸、スプーンやフォーク、湯飲み、魔法瓶、スリッパなど。

私は一人暮らしで、歩行が不自由、自分ひとりで荷物を持って行くことができません。入院予定の病棟に連絡して、入院する日に宅配便で荷物が届くようにしたいので、受け取っていただけないものかと問い合わせました。すると、「どなたかご家族の方は一緒にいらっしゃれませんか?」と聞かれました。

実は、以前にも同じ病棟に入院したことがあったのですが、その時には長男に仕事を休んでもらい、遠方なので前日から家に来て泊まってもらい、そうして朝一緒に病院に行ったのですが、たったこれだけのことをするのに、家族とはいえ、仕事を休ませるほどのことがあるのだろうかと、出来ることは自分でしたいと思う私は疑問に感じました。

それについても思い出すのは数年前、アメリカ、ニューヨークの病院に入院したときの体験です。入院の日が決まり、日本での習慣から、入院に必要な持ち物について質問すると、「えっ?」という感じで、「何もいりません。手ぶらで、そのまま来てください」と言われました。

当日、病院に着くと、私の名前とID番号が貼られた写真のようなビニール袋を渡されて、下着から靴まで、持ち物を全部入れるように言われました。入院中に必要なものはすべて病院で支給されて過ごし、退院の日にまた袋のものを身につけて手ぶらで帰りました。

私は元気なころ、フルマラソンの大会にもよく参加していたのですが、ランナーがレースに出るときに持ち物すべてを入れて預けるための袋と同じようなものです。ゴールしたら、袋の中のものを着て帰るのです。

病人は、治療やその後の快復について不安な状態で、忙しい中で入院の日程を確保する段取りをつけるのにも苦労します。日本の多くの病院は、なぜ入院の荷物にこんなに細かい要求をするのだろう、と海外で長く暮らしてきた私には、かなり不便なことだと感じられます。

今でこそ、多くの病院で病衣(パジャマ)のレンタル制度があり、便利になったと思いますが、バスタオルなど、ホテルでもスポーツジムでもあるのが当たり前なのに、なぜ多くの病院ではレンタル制度がないのか、また、どこのレストランでも湯飲みや箸、スプーンなどは持参する必要がないのに、なぜ病院では自宅から持ってくるようにというのか、私には不思議としか思えないことがたくさんあります。

私は以前、両手を同時に手術したことがあり、3度の食事の度に自由にならない手で箸やスプーンを洗いに行かなければならないことをとても不便だと感じました。カレーなどが出された後のスプーンは、水で流すだけでは綺麗になりませんでした。けれども、こんなことをするためだけに家族に付き添ってもらうことには抵抗を感じます。

ほんのちょっとの工夫でもっとずっと便利になり、家族にも負担をかけなくてすむようにできるのに、と思います。もちろん、自ら付き添いたいご家族はそれでよいのですが。